アルティ-クレイの礫率60%地盤への挑戦

はじめに

近年の推進工事は、長距離・急曲線施工の需要が多く、それに伴う推進施工技術、関連材料の開発が続けられてきました。
これらの技術には、施工精度の向上はもちろんのこと、「推力の低減」が重要な課題として求められています。
推力とは、掘進機カッター部の面板抵抗と、総推進距離の管外周面における周面抵抗の和から成り立っています。
面板抵抗は、掘削地盤の状況にもよりますが総延長区間においてほぼ一定となります。
しかし、周面抵抗は推進距離が長くなれば、当然のことながら上昇していきます。
特に、長距離や大口径推進では、周面抵抗を低減させることが、推力の低減につながるのです。
管外周面の周面抵抗を低減させるには、掘進機カッターにより拡幅されたテールボイドに、滑材を確実に注入することが重要になります。
しかし、注入した滑材が、地下水に含まれる塩分や鉄分等のイオンの影響を受け劣化し、また透水係数の高い礫地盤等では、滑材が地山の間隙に浸透して逸出してしまうことが問題とされています。
今回、イオンの影響を受けず、地山に逸出しにくく、長期間テールボイド内で滑材性能を持続する滑材として「アルティークレイ」が開発され、現場での実証実験を行いましたので、その実績報告をいたします。

アルティークレイの説明(写真‐1)

写真-1 アルティークレイ

アルティークレイとは、高膨潤させたベントナイト(A材)と、調合添加剤(B材)を混合させた、2液性の推進工法用超高粘性滑材です。
アルティークレイは、推進管と地山との空隙(テールボイド)を充填することにより、管周面における摩擦抵抗を著しく低減できます。
また、イオン等の多く含まれる地下水などに影響されることなく超高粘度を維持し、地盤からかかる圧力に対しても高い強度を発揮します。
さらに、長距離推進工法や地下水の多い礫地盤条件での推進施工においても、確実にテールボイドを維持し、推進力を低減することができます。
アルティークレイの性質・標準配合表を表-1に記します。

名称アルティークレイA材アルティークレイB材
配合A材原材料  25kg
清水 500リットル
B材原材料 5kg
外観乳灰色液状半透明液状
比重 20℃ 作液後 1.02
(A材真比重 2.50)
1.01
粘度600mPa・s600mPa・s
ゲルタイム数秒数秒
ミキシング後の粘度15,000mPa・s15,000mPa・s
表-1 アルティークレイの性質標準配合表

アルティークレイの性能試験

アルティークレイが耐イオン性に優れ、滑材性能を経時変化せず維持できる性質であることを確認するため、以下の項目の試験を行いました。

耐イオン試験

目的アルティークレイが地下水に含まれるイオンから受ける影響を確認します。
内容海水を入れた500ccビーカーにアルティークレイを24時間放置し、溶出状況・滑材性能の変化を確認します。
尚、滑材性能は、粘性測定(写真-2)と回転摩擦計係数測定(写真‐3)を行い評価しました。
(以後、K係数測定と記します。)溶出試験状況は写真-4に示します。
結果表-2に記します。
 滑材アルティークレイ  他 滑材
(吸水性ポリマー)
滑材ナシ
溶出状況全くしなし海水接触直後より始まる
粘性(MPa・s)15,000 → 14,0001,500 → 20
K係数0.10 → 0190.10 → 0.590.63
表-2 耐イオン試験結果(24h経過)
結論アルティークレイは他滑材と比較しても、水溶性がなく、耐イオン性に優れ、経時変化しにくい滑材ということがわかりました。
塩分・鉄分の含まれている地下水の多い現場で期待できます。

滑材性状試験

目的テールボイド内に充填された後、アルティークレイの逸失性・テールボイドの保持性を検討します。
内容滑材の浸透性、濾水量、圧縮強度を測定します。表-3に詳細を記します。
結果表-4 参照
 項目測定内容
粘性測定ビスコテスターにより回転粘度を測定する。
浸透性試験濾水試験器に60メッシュの金網を敷き、φ2mm鉛球を高さ5cmに敷き詰め、その上に試料を300cc加え、0.29MPa(3kg/cm2)で加圧し漏れだした量を測定する。
濾水性試験試料400ccを0.29MPsで30分間加圧し、濾水量を測定する。
圧縮強度試験試料を800cc容器に入れ、10mm貫入させた時点の圧縮強度(抵抗値)を読み取る。
表-3 試験項目・内容
浸透性(mL)濾水量(mL)粘性(MPa・s)圧縮強度(kPa)
アルティークレイ485.415,0002.9
他滑材(吸水性ポリマー系滑材)16816.51,5000.9
表-4 滑剤性状試験結果
結果アルティークレイは、浸透性が少なく、圧縮強度が大きいことがわかりました。
テールボイドを安定的に保持し、幅広い土質・長距離の現場に対応できます。

工事実証実験報告

現場概要

工事名N工事
工法泥土圧工法
推進距離193.41m
管径φ3000mm
土被り11.25~11.98m
N値10~50
地下水流速速い
水位-3.57m
土質砂礫土(表-5参照)
調査ヶ所 Dゾーン(発進後100m地点)
土質名砂礫
分類粘度シルト粗石
粒径(mm)
0.005未満
0.005~0.0750.075~22~7575~300
粒度(%)23.334.75010
表-5 土質データ

推力低減効果

N工事は地下水に鉄分が多く、最大粒径φ300mmの砂礫層(礫率:60%)で、滑材の劣化・逸失が予測されることから、アルティークレイが選定されました。
発進後35m付近からアルティークレイの注入を行いました。
達時の最大推力は1200tという低推力で、計画推力の約20%(計画推力は5100t)で完了しました。 (図-1)

アルティークレイは浸透性が少なく、圧縮強度が大きいので、テールボイドを長期に渡り、安定的に保持できるという試験結果より、1次注入のみで注入を行いました。
注目されたのが縁切り推力でしたが、図-2からもわかるように、縁切り推力と実績推力はほぼ同値でした。
これは、アルティークレイがテールボイド内に長期間高性能で維持されていることを意味します。
注入開始から5日後に、テールボイドからサンプリングを行った結果、注入時と同粘性であることも確認できました。
休み明けの縁切り推力も平日の縁切り推力と変わりがありませんでした。

推力の上昇がみられるのは、到達時の改良ゾーン以外に、図-3に示すB、Cゾーンで2度ありました。
Bゾーンは中押管挿入時、Cゾーンは粗石層に入りカッタトルクが高くなり、それに伴う推力の上昇と考えられます。
D、Eゾーンに入ってからは、カッタトルク・面盤抵抗が比較的安定し、その区間の単位面積あたりの周面抵抗値は、0.33t/m2と算出できます。(図-3)
8日間停止後の最終押し出し時は860tとなり、単純に全延長の周面抵抗を計算すると0.414t/m2となりました。

図-3の下表の滑材充填率は、3.55m(マシン最外径)―3.50m(管外外径)=0.05m→0.05×1000÷2=25mmの拡幅量に対し、20%増量分のテールボイドが拡幅されていると計算し、それに対する滑材注入量の割合を滑材充填率として示しています。

おわりに

本施工実証実験より、アルティークレイは、推力の低減は勿論のこと、大きな「縁切り推力」がかからないという、画期的な滑材であることがわかりました。
更なる改善・改良を重ねることにより、将来的には中押ジャッキや元押ジャッキ設備の軽減、低推力による日進量の増等、施工のトータルコストダウンが望めると思われます。
最後に、今回アルティークレイの実証実験に際してご協力をいただいた皆様方に、厚くお礼申し上げます。