台湾における推進施工事例 嘉義市呼び径2400mm急曲線推進施工

はじめに

昭和23年に、当社が日本で初めての推進工法を施工してから60年近くが経過しました。
その間に様々な技術開発や多くの経験が積み重ねられ、現在では推進距離1kmを超える超長距離施工、半径が推進管内径の50倍以下の急曲線施工、土被り30mを超える大深度施工などが実施され、推進工法は、我が国が世界に誇れる土木技術の一つに成長しました。
近年、その技術力は海外にも輸出され高い評価を受けています。
本稿では、当社の主力工法であるアルティミット工法の技術を用いて、台湾で施工をした呼び径2400mm急曲線推進施工について報告致します。

工事概要

工事概要

工事名仁愛~北回161KV線地下電纜管路工程(可轉彎推管段)
発注者台湾電力公司
工事場所台湾 嘉義県嘉義市
施工期間2006年7月~2006年11月
施主真毅營造有限公司
推進施工者雍坤營造有限公司
機動建設工業株式会社
用途電力管路
管内径2400mm
工法泥水式推進工法
推進延長L=345.224m
曲線曲線半径R=50m 1箇所
土被りH=8.4m
地下水位GL-3.8m
土質砂質土
N値10程度

この工事は嘉義市内の大通りである垂楊路~新民路下に管内径2400mmの電力管路をL=345m推進埋設するもので、到達間際に曲線半径R=50mの急曲線区間があります。
R=50mの区間は長さが0.8m、直線区間は2.32mの管を使用しました。(図-1、写真-1、2)

図-1 推進線形図
写真-1 推進路線状況
写真-2 発進立坑基地

嘉義市について

今回施工を行った嘉義市は台湾中南部に位置し、台湾南部では高雄市、台南市に次ぐ第3の都市です。
北回帰線が市内南部を通っており、近くには有名な観光地である阿里山があります。
施工当時は、首都台北から自強号(特急)で3時間半程要しましたが、現在では台湾高速鉄道(新幹線)が開通しており、嘉義までの時間は短縮されています。(写真-3)

写真-3 嘉義市内

施工の課題と対策

急曲線及び推進力低減への対応

日本では管内径が1500mm以上でかつ管長が0.8m以下の管を使用する急曲線施工では、推進管の破損や座屈を防ぐために、合成鋼管など特殊な推進管が多く用いられています。
本工事は、管内径が2400mmで曲線半径がR=50mという急曲線施工でしたが、台湾には合成鋼管などの特殊な推進管がないため、写真-4に示す長さ0.8mの鉄筋コンクリート管での施工となりました。
したがって、管の破損や座屈を防止するために、曲線造成の管理及び推進力の低減に注意をはらいました。

写真-4 推進管(管長0.8m)
センプラカーブシステムの採用

曲線線形に対する推進管の追随性を確保し、また、管端部の接触による破損を防止するためにセンプラカーブシステムを採用しました。
センプラカーブシステムは、写真-5に示すように、推進管継手部毎に塑性領域の広い推進力伝達材(センプラリング)を上下対称に設置することで推進管の曲線造成を容易にします。
センプラリングは推進管の折れ角、管径、推進力から計算し種類、厚さを設定しました。

写真-5 センプラリング
目地開口制限装置の採用

急曲線区間では、推進管の目地開口が継手部の拘束力の変化などでばらつくことがあります。
これにより、目地開口長が許容限界値を超え脱落したり、推進管列が乱れ推進抵抗力が増大するなどのトラブルを招く場合があります。
本工事では、目地開口制限装置を採用し、R=50m曲線区間の目地開口長を制限することで目地の脱落や管列の乱れを防止しました。

元押ジャッキの配置方法

通常、元押ジャッキは推進管の左右方向に配置します。
しかしながら、本工事のように急曲線施工ではセンプラリングの幅が狭くなるため、左右の配置ではセンプラリングが設置されている位置にジャッキが当らなくなり、推進力がうまく伝達できず推進管が破損する恐れがありました。
よって、元押ジャッキをセンプラリングが設置されている推進管の上下方向に配置することにしました。(写真-6)

写真-6 上下配置の元押ジャッキ
0.8m鋼管の使用

今回使用した泥水式掘進機(写真-7)の方向制御ジャッキは、R=50mの曲線造成に対して、計算上は充分なストロークを持っていましたが、ジャッキを設置した中折れ部から後胴部が前胴部より短いため、軟らかい地盤では地盤反力を確保できずに曲線造成に支障がでる恐れがありました。

写真-7 泥水式掘進機

よって、掘進機の後方に、写真-8に示す、長さが0.8mの鋼管を5本設置し、鋼管の1本目と掘進機の後胴部を緊結することで曲線造成の地盤反力を確保しやすくしました。
また、2本目以降の鋼管は、掘進機の方向制御ジャッキで曲線造成ができなかった場合に、強制的に目地を開口させて曲線造成を補助できる構造にしました。

写真-8 0.8m鋼管
アルティークレイ、アルティーK及び自動滑材充填装置の使用

推進力低減のため、一次注入滑材に超粘性滑材のアルティークレイ(写真-9)を、二次注入滑材にアルティーK(写真-10)を使用しました。
アルティークレイは、アーチ効果が小さい大口径推進では、その超高粘性と高強度により確実にテールボイドを保持し推進力を低減することができます。
また、二次注入には自動滑材充填装置(写真-11)を使用し、滑材の注入量、注入圧及び注入位置を集中制御し効率的な滑材注入を行いました。

写真-9 アルティークレイ
写真-10 アルティ-K
写真-11-1 自動滑材充填装置
写真-11-2 自動滑材充填装置

精度管理

精度管理は、直線部ではレーザートランシットにより行い、曲線部では掘進機先頭部に設置したジャイロコンパス(写真-12)で曲線造成中の掘進機の姿勢をリアルタイムに管理しました。
また、掘進機の位置は推進管内に設置した複数のトータルステーション(写真-13)で推進1サイクル終了毎に計測しました。

写真-12 ジャイロコンパス
写真-13 管内のトータルステーション

施工結果

地盤が軟らかい砂質土だったため、発進当初は掘削トルク・推進力共も低く推移しました。
推進延長45m付近で掘進機から37m付近の管目地から出水するトラブルが発生しました。
原因は推進管のゴムリングが切れたことによると考えられました。
また、中押管を推進中に発進坑口のゴムパッキンが引き込まれ破損するトラブルが発生しました。
これらのトラブルにより推進力が増大しましたが、滑材の注入量を20~30%増やし、各注入孔に確実に注入することで推進力を低減することができました。
泥水処理設備は本工事での処理量に見合う能力を持つ泥水一次分離機がなかったため、沈殿方式(写真-14)で行いました。
しかしながら、掘削された砂の粒子が細かいために、沈殿方式では十分に分離できないまま送泥ラインから切羽に送られ、その結果、テールボイド内に堆積し推進力の増大を招くことになりました。
よって、推進管1本毎に泥水の比重と粘性を計測し、比重が1.3以上になると泥水を交換することで対応しました。

写真-14 土砂沈殿槽

曲線造成では、当初、3箇所に1箇所の割合で目地が大きく開口しようとしていましたが、目地開口制限装置により、すべての目地を均等に開くことができました。
また、掘進機後方に設置した鋼管の目地を強制的に開くことで掘進機のジャッキストロークに余力ができ、容易に曲線造成ができました。
日進量は、0.8m管推進時は推進架台上で3本1組として組むため、セットに時間がかり、平均7.2m/日でした。
2.31m管推進時は、直線部で平均13.9m/日、曲線部で平均9.28m/日でした。

写真-15 推進中の0.8m管
写真-16 掘進機操作状況

施工は、センター方向で右5mm、レベルで+20mmという高精度で到達でき(写真-17)、到達時の推進力も図-2のグラフに示すように3140kNと計画推進力より十分に低い値でした。
また、曲線区間も、写真-18に示すように管列の乱れもなく、高精度でR=50mの曲線を造成することができました。

写真-17 到達した掘進機
図-2 推進力の推移グラフ
写真-18 施工完了後の管内

今後の展開について

当社は、現地法人として台湾機動建設工程股份有限公司を台北市内に設立し、今後、台湾での施工支援、技術コンサルティング、推進資機材のリース、販売等を行う予定で、現在も台湾北部の淡水にて呼び径1200mmの長距離泥水推進の技術支援を行っています。

おわりに

本稿では、台湾での施工事例を報告させていただきましたが、当社の技術力を十分に発揮できた施工結果であったと考えます。
今後も、台湾では地方都市の下水道普及や電力管路の地中化など推進工事の需要は高まって行くと思われ、施工に当社の技術力を活かしていきたいと考えています。
今回の施工に当たり、協力していただいた日本、台湾双方の関係各社に心から御礼申し上げます。

本技術報告は、(社)日本下水道管渠推進技術協会発行「月刊推進技術2007年5月号」に掲載されたものを一部修正し転載しました。