小口径アルティミット工法 長距離・曲線推進施工報告 -超軟弱地盤での高精度施工への挑戦-

はじめに

図-1 泥土圧方式システム

小口径アルティミット工法は、長距離・曲線推進施工を可能とした工法で、以前本誌でも実証実験報告や互層地盤を泥水方式で施工した報告を紹介しました。
本工法の適用範囲をさらに幅広い土質で対応可能とするために、泥土圧方式の掘進機の開発を行い、大阪市内においてN値=1の軟弱地盤における曲線施工を完了しました。
今回は、小口径アルティミット工法泥土圧方式の概要と施工報告を紹介します。

本工法の概要

泥土圧方式は、掘進機が掘削した土砂を、掘進機の先頭から注入される加泥材と攪拌した泥土の圧力で、切羽の圧力や地下水圧を対抗させるとともに、 加泥材と攪拌することで空気輸送しやすいように改良し、排土ユニットにより坑外へと搬出する工法です。
泥土圧方式のシステム構成図を、図-1に示します。

工法の位置づけ

本工法は図-2に示す通り、小口径推進工法の高耐荷力方式の泥土圧方式(一工程)に分類されます。

図-2 工法の分類

適応範囲

適応管径は、φ250mm~700mmとなります。推進延長は、呼び径、土質により異なりますが、表ー1のようになります。
泥土圧方式は泥水方式と比較して、産廃処分量が増加する粘土地盤や泥水の逸水が大きい礫地盤での施工に有効です。

土質礫含有率N値最大礫径面板
A土質 シルト粘土10以下標準型
A土質 砂礫混り土10%以下20mm礫対応型
B土質 B1 砂礫40%以下呼び径の1/4以下礫対応型
B土質 B2 硬質粘性土10~50標準型
C土質 C1 玉石混り砂礫50%以下呼び径の1/3以下礫対応型
C土質 C2 玉石混り砂礫70%以下呼び径の1/2以下巨礫対応型
D土質 巨礫混り砂礫土60%以下呼び径の2/3以下巨礫対応型
E土質 岩盤一軸圧縮強度100MPa以下巨礫対応型
表ー1 適応範囲
※特殊地盤については別途検討します。

本工法の特長

連続推進が可能

排土ユニットにより搬出された土砂は、土砂タンクに溜められ、一定量に達してから吸引車により搬出されるため、吸引車の入れ替え等による時間の損失がありません。

小さい呼び径にも対応

長距離推進の場合、泥水方式は推進管内に中継ポンプを設置する必要がありますが、呼び径が小さくなると中継ポンプが設置不可能になり、還流ができなくなります。
泥土圧方式の場合は、推進管内に中継ポンプを設置する必要が無いため、φ400mm以下の呼び径でも長距離推進が可能です。

機器の構成

掘進機

写真-1 小口径アルティミット泥土圧掘進機

本工法の掘進機には、急曲線の施工を可能 にするため、複数箇所に曲線造成用のジャッ キを装備しています。
面板は土質により最適 なものを選択します。(写真-1参照)

中央集中操作室

写真-2 中央集中操作室

中央集中管理システムを採用しており、推進施工に必要な数値や、掘進機の状況といった情報が操作室内のモニタに表示されます。
推進施工に関する操作をこの操作室内で遠隔制御することが可能です。(写真-2参照)

測量装置

泥水方式同様に、電磁誘導測量装置(モールキャッチャー)やジャイロコンパス、液圧差レベル計を使用して曲線推進の精度管理を行います。
直線区間ではレーザーターゲットを使用しますが、曲線以降のモールキャッチャーの傾向を確認するために、直線時でもモールキャッチャーの測定を行います。
それらの測定結果を中央集中操作室のモニタにリアルタイムに表示し管理します。 (図-3参照)

モールキャッチャー

掘進機の水平位置を計測するのに使用します。掘進機内の磁界発信器から磁力線の信号を出力し、地上の受信器で計測します。 (写真-3)
モールキャッチャー測定の注意点として、測定位置近辺に磁力線に影響を与える地下および地上構造物がある場合は、測定精度に影響を与え、場合によっては測定不能になってしまいます。
施工を行う際には事前に周辺環境の調査を行い、充分に検討を行なう必要があります。
測定可能深度についても周辺環境が大きく影響します。
測定位置周辺のノイズが大きい場合は、受信器の検知する出力(シグナル)とノイズとの比(S/N比)が小さくなり、測定が困難になります。施工可能土被りの設定は、このS/N比のバランスが重要になります。

液圧差レベル計

液圧差レベル計は、発進立坑内に設置する基準センサ、掘進機内に設置する機内センサ、両方のセンサをつなぐホースおよび圧力を伝達させるための基準タンクで構成されています。
基準センサと機内センサの差を計測することで、掘進機の高さの変化を計測し、中央集中操作室内のモニタにリアルタイムで表示して管理します。

ジャイロコンパス

掘進機の方向を計測します。発進時の掘進機の向きを基準の方位角として、施工中に掘進機が計画線に対してどのような姿勢にあるのかを判断します。
モールキャッチャーの測定位置、ジャイロコンパスの方位角、修正ジャッキのストローク等を計測することで、掘進機の姿勢を正確に把握し、推進精度を向上させます。
また、推進区間中に、計画線上を横断する管路や軌道がある場合は、モールキャッチャーの測定精度がそれらに影響を受けてしまうため、ジャイロコンパスの方位角の変化量から掘進機位置を算出し精度管理を行います。

排土ユニット

連続吸引装置と土砂タンクから構成されます。
連続吸引装置内の真空ポンプにより真空圧を発生させ、さらに掘進機の吸気孔から空気を吸い込ませることで、掘削した土砂を空気輸送により搬出します。
このようにして搬出された土砂は、連続吸引装置の下に設置した土砂タンクに溜められ、一定の量が溜まってから吸引車により搬出されます。

加泥材プラント

加泥材および滑材の管理を行います。
ミキサー、ポンプ、流量計、操作盤がユニット化されており、加泥材・滑材の注入管理が容易に行えます。
注入用のポンプはインバータ制御されているため、推進速度に合わせた注入量管理が可能です。

施工事例

本工事は、N値≦1の軟弱地盤をR=400mmの曲線推進で施工しました。(写真-4参照)

写真-4 施工現場状況

工事概要

施工場所大阪市東成区
発注者大阪市
工法泥土圧方式一工程
管径φ450mm
推進延長L = 137.5m
土質シルト・粘土(N値<=1)
土被り3.2~3.6m
発進立坑3.0m×6.14m ライナープレート
到達立坑φ2.0m ライナープレート

曲線推進

本工事は、推進方向に並行に多くの既設管が埋設されていました。
水平方向の測定を行うモールキャッチャーに影響を与える管路も存在するため、直線区間においてもモールキャッチャーの測定を行い、測定誤差の傾向を確認しました。
また、推進路線と埋設管とが近接した際には、ジャイロコンパスのデータを併用して精度管理を行いました。
垂直方向については液圧差レベル計で測定を行いましたが、ホース接続の際の管理を徹底して行いました。(図-4参照)

図-4 平面線形

軟弱地盤

N値<=1と低く、掘進機の沈下による垂直方向の精度不良や、掘進機の横流れによる曲線造成不良が想定されました。
掘進機にローリング防止及び修正補助用に大型スタビライザーを配置し、さらに掘進機の姿勢を含めた精度管理を中央集中管理システムで徹底することで、高精度で施工を完了しました。

分割回収

到達立坑はφ2.0mのライナープレートで、既設の合流管が残置してある(写真-5参照)ため、掘進機を4分割で回収しました。

施工結果

推進力管理

施工中は滑材の注入を計画的に行なった結果、到達時の推進力は200kNと、計画よりも低い推進力で到達することができました。(図-5参照)

図-5 設計推進力と実推進力の比較

滑材は小口径推進用滑材の「S2K」を使用しました。
この「S2K」は、大中口径のアルティミット工法用滑材「アルティーK」と同等の性能を持ちながら、粘性を低くし圧損を少なくしたため、小口径推進用の細い配管材で長距離でも注入が可能です。(写真-6参照)

曲線推進管理

センター管理は、直線区間推進中からモールキャッチャーの測定を行い、地上での測定値とレーザーターゲットでの測定値を比較し、周辺の影響を確認しながら管理した結果、10mm以内という高精度で到達することができました。
途中、マンホールや埋設管に近接した際に、若干影響を受けたような現象がありましたが、ジャイロコンパスの値で補正管理した結果、順調に精度管理を行うことができました。(図-6参照)

図-6 センター管理結果

レベル方向は、軟弱地盤のため発進当初は設計勾配を維持することが困難でしたが、大型のスタビライザーが沈下を防いだことや、液圧差レベル計のホース接続の管理を確実に行った結果、10mm以内の高精度で到達することができました。(図-7参照)

図-7 レベル管理結果

まとめ

今回の施工は、小口径アルティミット工法としてN値<=1の軟弱地盤で確実に曲線造成が行え、センター・レベル共に高精度で到達できたことは、 今後の施工に大きな自信となりました。
これからも、泥土圧方式と泥水方式を適宣現場条件に合わせて選択することで、より安全性の高い小口径、長距離、急曲線施工を提供してまいりたいと考えています。