小土被りの長距離・曲線推進工事

はじめに

本工事は、太宰府市御笠川那珂川流域関連公共下水道事業太宰府排水区の分流区域における雨水計画で、土地の高度利用や市街地の拡大による雨水浸透量や貯留能力の減少による雨水流出量の増大に伴う浸水被害の解消を目的とした雨水管渠を築造するものである。
現場近くには、学問の神様として全国はもとより広く世の崇敬を集め、年間約700万人の参拝客で賑わう、菅原道真公が鎮座する太宰府天満宮があり、施工現場の道路はこの天満宮参拝への主要県道でもあり交通量が非常に多い。この道路下に呼び径1800(外径2120mm)のヒューム管をアルティミット泥水式推進工法で敷設した。
本工事で特筆すべき事項は、最小土被りが1.65m(1650mm/2120mm=0.77D)、発進立坑から約300mまでの区間は土被り厚さ1.0D以下の区間が続き、この間に半径192mの曲線区間(曲線長=211m)を含む延長583.7mの、低土被り・長距離・曲線施工という厳しい施工条件。
以下に、本工事の特異性とリスク対策としてのアルティミット工法の施工技術を報告する。

工事概要

工事名奥園雨水管渠第23-1工区築造工事
発注者太宰府市
請負者機動・宮原特定建設工事共同企業体
工期平成24年3月1日 ~ 平成25年3月27日
施工場所福岡県太宰府市五条1丁目地内
工法アルティミット泥水式推進工法
推進管径呼び径1800ヒューム管
土質シルト混じり砂礫層
施工延長589.1m
推進延長583.7m
曲線R=192m CL=211m 1箇所
太宰府天満宮
現場平面図

施工内容

小土被り

小土被り推進

本工事は、土被りが最小1.65mで、上部が緩い盛土層で地下埋設物が多数近接していることから、推進施工に伴い地盤の緩みや沈下が起こり、地下埋設物や路面への影響が懸念された。
管路部には地下水が無く、掘進機の選定は切羽の安定を最優先で選定した。泥水式推進工法では、低土被り部での地表面の沈下・陥没、泥水の噴出・奮発の発生が想定され切羽土圧の安定性が必要となった。  

長距離

管路部路線道路は太宰府天満宮参拝への主要県道であることから、途中に中間立坑を設けることは不可能であった。
このため、推進延長583.7mの長距離推進となった。
長距離推進では、滑材の散逸や劣化により推進管外周面と地盤との摩擦抵抗力の増大が懸念された。
計画推進力が推進管の許容軸方向耐荷力より大きくなることから、1箇所の中押装置が必要となったが、小土被りの長距離推進であり、万一の不可抗力等による長期間の推進停止にも対応できるように、掘進機直後にシールド筒を設置し、管路途中に1箇所の中押装置を設備した。
安全で確実な推進施工を実施するためには推進抵抗力を低減させることが最も有効な対策となる。よって、滑材一次・二次注入を基本としたアルティミット滑材注入システム(ULIS)を採用することで推進抵抗力の低減を図った。

アルティミット滑材注入システム

本工事が小土被りで地上への噴出や地山の崩壊が懸念されることから、一次注入滑材としては超高粘性を維持し地中への逸失が無く、地盤から受ける圧力に対しても高い圧縮強度を発揮する性質が必要であった。
そこで、一次注入には充填性能と減摩性の両方に優れた超高粘性滑材(2液性)のアルティークレイを使用し、掘進機後方の推進管外周部オーバーカット部の全量を対象とした量管理を行い、初期発進時からテールボイドへの注入を確実に行った。
二次注入にはベアリング作用による潤滑効果が働き、地盤と管の減摩性能が特に優れた高粘性滑材(1液性)のアルティーKを、推進管とアルティークレイとの間に25mピッチで注入することで、推進管外周地盤への散逸や劣化に対する補足を自動的に行った。
この結果、大きな減摩効果を得ることができ大幅な周面抵抗力の低減が図れた。
なお、両滑材は、中性で安全性が高いため地中環境の保全でも優れている。
最終的には、計画所要推進力13700kNに対し実績推進力は4200kNと計画の約30%で到達させることができ、設置していたシールド筒や中押装置を使用することはなかった。
また、推進途中での掘進機のビット交換を不要とし、当初取り付けたビットで到達立坑までの長距離を推進できる対策として、カッターフェイスを強化型シェルビットで補強した。
無事到達した掘進機カッターフェイスの摩耗状況を見ても、この補強は有効だった。

泥水式掘進機
泥水式掘進機カッターフェイス
掘進機到達状況

曲線施工

曲線施工では、推進力の曲線外側方向への分力による管外周面との摩擦抵抗力が付加される。
本工事では、長距離で曲線推進のため、非常に大きな推進力の増加が想定された。
このような推進力の増加は、トラブルの要因となり、推進管の破損や周辺地下構造物への悪影響が懸念された。
推進管列の曲線形成は、管の継手部に低発泡の推進力伝達材(センプラリング)を上下に設置するセンプラカーブシステムを採用した。
センプラカーブシステムは、曲線部でも推進合力の作用点を管の中央に近づけるとともに広い範囲で推進力を伝達し、掘進機が造成した曲線に正確に推進管を追随させることができる。
センプラリングの使用に際しては、計画時に各継手部の推進力を算定し、シミュレーションソフトのセンプラリング選定ソフトを用いた。
本ソフトは、その推進力による圧縮応力度が、推進管の許容応力度を超えないように形状、発泡倍率、厚さ等を変化させて曲線形状と推進力に見合う適切なクッション材を選定することができる。
本工事では、選定の結果、センプラリングを13通りのパターンで推進管に貼り付けることにより、管継手部の応力集中を抑制するとともに各継手部を均等に開口させ、正確な曲線線形を形成した。

センプラリング配置図

また、曲線推進に対応するために、掘進機の設計折れ角は計画曲線の折れ角よりも余裕を持っていることが必要である。
本工事では、曲線折れ角の2倍の設計折れ角を確保した。

アルティミット泥水式掘進機

掘進機内には方位と高さを常時把握するためにリアルタイム計測システム(ジャイロコンパス、ピッチングセンサー、液圧差水レベル計)を装備し、的確な掘進中の方向制御を可能にした。
また、推進管列の変位についても自動追尾式トータルステーションの採用により測量時間の短縮や推進施工管理者労力の低減が可能となり、前述のセンプラカーブシステムの効果とも相まって安定した推進線形精度管理ができた。

狭小な作業ヤード

通常φ1800㎜クラスの泥水式推進で一次処理のみの場合では、泥水処理設備スペースに約190㎡の用地が必要であるが、当工事では作業スペースが歩道を利用しての狭小スペースであり、泥水処理設備+滑材注入設備で約120㎡しかなく、各種機械機材の配置に苦慮することになった。
また、狭小スペースでも品質・安全性を低下させないことが最も重要なことであり、作業通路、待避スペース、非常時の救護スペースの確保は絶対条件とした。
泥水プラント、滑材プラントはユニット化した設備を上下2段配置とし空間を有効利用することにより、作業環境や施工効率を悪化させず、人や車の通行を妨げないよう配慮した。
また、送泥水の調泥を従来の比重主体の管理から粘性主体の管理とすることで、作泥設備を小型機械化し省面積化・省体積化を図った。
推進中に掘削土質が大きく変化し、イールドバリュー管理が必要になった場合は、場外の泥水リサイクルプラントより泥水を運搬し調合することも念頭において計画した。

工事現場全景

あとがき

一般的に、土被りが大きければ土のアーチング効果が期待でき、路面や浅い位置の地下埋設物に与える影響は小さいが、土被りが小さい場合には対象土層、地下埋設物への影響、泥水噴出の可能性、近隣家屋への影響など総合的に判断し、薬液注入などの補助工法の検討も必要になる。
緩みや沈下計算では、盛土層が厚い地盤、特に低土被りでは上部のほとんどが盛土層となるため、技術計算上の数値の取り扱いにより計算結果も大きく異なってくるので注意が必要である。
本工事におけるアルティミット泥水式推進工法の施工は、泥水の品質、送排泥流量、切羽水圧、推進速度、推進力、掘削土量等の管理に細心の注意を払いながら施工することにより、低推進力を維持し路面の沈下・陥没、地上への泥水の奮発、逸泥等のトラブルも一切なく安全に無事工事を完了することができた。

推進完了後の管内

本現場報告は、一般社団法人 日本非開削技術協会 主催の2013年11月27日の(第24回)非開削技術研究発表会で発表されたものを一部修正し転載しました。