日本堤ポンプ所耐震補強その2工事 工事報告書

工事概要

日本堤ポンプ所は、台東区の大部分及び荒川区西日暮里五丁目の一部、東日暮里一、二、四、五丁目の一部の雨水を吸楊し、墨田川に放流する施設です。
本工事では、日本堤ポンプ所において土木工事(耐震補強工、仮設工、付帯工)と電気設備工事を行いました。

工事名日本堤ポンプ所耐震補強その2工事
工事場所東京都台東区浅草五丁目73番12号(日本堤ポンプ所内)
発注者東京都下水道局
工期自)平成30年 5月28日 ~ 至)令和 1年 5月23日
写真-1.日本堤ポンプ所全景

本報告では、主たる工事内容となる土木工事のうち、耐震補強工事について報告します。

耐震補強工事施工数量

耐震補強工事は主として日本堤ポンプ所の地下2階部分に対して行いました。施工箇所は、吐出管室・エンジンベッド室・雑用水槽・ポンプ井(スクリーン槽含む)・雨水沈砂池の5カ所です。

あと施工せん断補強鉄筋工あと施工せん断補強鉄筋D16×260mm 108本
鉄筋コンクリート補強工コンクリート161m3
無収縮モルタル4.5m3
型枠684m2
鉄筋9.83t
鉄筋(アンカー筋)5,659本
足場629掛m2
あと施工伸縮可とう継手工あと施工伸縮可とう継手21m*6箇所=126m
図-1.施工箇所図(地下2階)

雨水は雨水沈砂池より流入し、ポンプ井に入り、ポンプ井内にある6基の雨水ポンプにより吐出管を通って外部へ放出される仕組みです。
吐出管室・エンジンベッド室・雑用水槽には雨水は流入しません。
施工時の制約条件として、ポンプ井内にある6基の雨水ポンプのうち、渇水期期間を利用して2基を使用停止状態として、停止する雨水ポンプを順次切り替えて施工区間を変更することにより、すべての箇所の耐震補強を実施しなくてはいけませんでした。
そのため、ポンプ井と雨水沈砂池を仮設阻水壁・既設阻水壁を設置して締切りを行うことでグループ分けをして、施工区間を設定しました。

図-2.施工グループ図

施工上の問題点

施工に先立ち内部調査を行った結果、ポンプ井・雨水沈砂池内部に汚泥が堆積していることが分かりました。
日本堤ポンプ所ではポンプ井に流入した雨水及び汚泥はポンプ井に設置された雨水ポンプで吸引して排出するしか出来ません。
また、雨水ポンプ吸口とポンプ井底面との高低差が1.3mあるため、完全に雨水と汚泥を吸引出来ませんし、6基ある雨水ポンプのうち主として第1・第2ポンプを運転していたために雨水ポンプが稼働していない箇所に汚泥が堆積していました。
しかし、汚泥の撤去を行わないとポンプ井・雨水沈砂池での施工が出来ないため、協議により汚泥処理を設計変更項目として実施することとしました。
施工は、雨水が流入しなくて直ちに着工できる吐出管室、エンジンベット室、雑用水槽の施工を先行して行い、並行して汚泥の吸引・搬出作業を行うこととしました。
ポンプ所は、雨が降ると雨水が流入するので、工事期間中も機能を停止することなく運営されます。
流入した雨水のため工事期間中に雨水ポンプを運転すると吸引力が大きすぎるため、工事に用いる資機材を吸引してしまう危険性があり、施設の滞留水排水ポンプを利用して雨水を排出しなければならず、雨水の排出に時間を要し、大雨時は作業中止はもちろんですが、その翌日も排水が追い付かず作業が出来ないこともありました。
なお、滞留水排水ポンプでは水深800mmまでしか排水は出来ません。
そのため、仮設の水中ポンプによる水替え工とバキュームによる汚泥吸引を行う必要がありました。
また、汚泥の吸引が出来る水位を維持するには継続して水替え工を行う必要がありましたが、施設のセキュリティの問題で夜間はホースを格納しないといけないこと、水替えで吸引した水を施設境界付近から排出させるのに臭気の問題もあり、連続的な水替え作業は出来ず、毎日早朝から水替えを設置して汚泥吸引作業開始までにポンプ井の水位を下げ、作業終了時には格納する必要があり、苦労しました。
また、作業に影響の無い範囲の汚泥搬出は行わず、部分的に汚泥を残したままの施工を行うことで、汚泥処理量を低減し工程短縮を図りました。
ただし、汚泥を残したままの施工は、作業環境の面からは臭気、汚れ等があり、かつ靴底に付着した汚泥により足場も滑り易くなるなど想定していたものより遥かに厳しいものでした。

汚泥処理

今回の工事では、汚泥処理が工程に影響を与えましたが、ポンプ所場内が狭いため4t吸引車と4tダンプ(有蓋車)を使用しました。
また、水や異物(ポンプ井内に大型のガラや鋼材等存在していた)選別しながら吸引したので時間が掛かったことや、東京都の処分場の開場時間が短い事もあり、概ね1日の処理量は16t(11.5m3)程度となり思いのほか時間が掛かりました。

図-4.ポンプ井内汚泥搬出配置図

鉄筋コンクリート補強工

今回の耐震補強の大部分は壁体の鉄筋コンクリート補強で、ポンプ所の地下2階部分の壁体の鉄筋コンクリート補強工でした。
既設の壁体の表面をチッピングで処理をして、あと施工アンカー設置、鉄筋・型枠組立を行い、コンクリート(厚さ250mm)を打設する工程でしたが、懸念事項は地下2階の施工箇所まで吐出管室の場合ではコンクリートポンプ車の配管延長が100m近くになることによる配管内の閉塞でした。
また、場内が狭いためアジテーター車は中型車(3.5m3積)となり、打設ピッチ調整をすることが重要でした。
今回のコンクリート打設回数はトータル12回でしたが、調整がうまく行え、配管内で閉塞することはありませんでした。
また、増打ち厚さ250mmの薄い断面でしたが、内部振動型の高周波バイブレーターと型枠を振動させる型枠バイブレーターを使用することでコンクリートの充填も良く出来ました。

図-5.鉄筋コンクリート補強工施工フローチャート
図-6.壁体側面図 と 図-7.壁体断面図

あと施工せん断補強鉄筋工

第1・第6スクリーン槽の壁体は、あと施工せん断補強鉄筋によるせん断補強を行いました。
本工事ではRMA工法を採用し、プレミックスモルタルを収容したカプセルを定着剤とし、ハンマードリルにより先端を斜めカットしたせん断補強鉄筋(異形棒鋼)に打撃を加えながら所定の寸法まで打ち込みました。

図-8.施工箇所側面・平面図
図-9.詳細図

あと施工伸縮可とう継手工

雨水沈砂池ではあと施工伸縮継手の施工を行いました。
あと施工伸縮可とう継手は水道施設等の目地部に設置して地震や不等沈下等で発生する伸縮・曲げ・振れ・せん断等の変位が発生した場合でも構造物の内部及び外部より水の流入・流出を防止する物です。
今回の施工は、財団法人下水道新技術推進機構による建設技術審査証明を受けている日本ビクトリック社製品であるVKRH2型を採用し、3基づつ2回に分けて施工を行い、各雨水沈砂池の床・壁・天井と躯体内面一周に設置しました。

図-10.施工箇所断面図
図-11.あと施工伸縮可とう継手断面形状

仮設阻水壁(ポンプ井)

ポンプ井の施工は、仮設阻水壁を設置してブロック分けを行い施工しました。
仮設阻水壁の設置は汚泥の中に行うため、土留めを設けて内部の汚泥を撤去して設置を行いました。
仮設阻水壁の枠組は鋼材で、角落し材は合成木材で製作しました。材料は重量があり最長部材はチャンネル材(5.8m)等でありましたが、ポンプ井への搬入口が小さく、周囲に施設設備があるため接触しない様に慎重に搬入を行う必要があったので、予想以上に大変でした。
ポンプ井の中での運搬も、汚泥の中を横移動させる必要があったので、足元及び手元が滑りやすくなり、注意が必要でした。
仮設阻水壁設置期間中に、大雨によりポンプ井に雨水が大量に流入してきたことが1度ありましたが、枠組と角落し材との接合部には、ゴム板を挟み込み、くさびを打ち込んで固定はしているものの、わずかな隙間から漏水が発生しました。
今後、同様の仮設阻水壁を設ける場合には改良の余地があると思いました。

図-12.仮設阻水壁概略図

終わりに

今回の工事は、設計図面と異なる現地状況・不明水(流入管路)等があったにもかかわらず、工期的にも渇水期期間中に完了する必要がある厳しい条件の中、東京都下水道局、協力工事会社、資機材供給業者の皆様のご協力の御蔭を持ちまして、工期内に無事竣工出来ました。
この場をお借りまして皆様にお礼申し上げます。