琉球石灰岩層に海水取水管路を築造

はじめに

本工事は、沖縄科学技術大学院大学の恩納村瀬良垣に位置する臨海実験施設に海水を供給する取水施設の取水方法・取水深度を変更するために、新たな取水管路を呼び径1000の推進管を使用して泥水式推進工法で築造するものです。
推進線形は平面方向には直線ですが、縦断方向には10.0%の下り勾配で発進し、VR=up500mの縦断曲線を経て0.5%の下り勾配で到達します。対象土質は岩盤であり、発進と到達の高低差は13.85m、到達部では管芯高さで最大0.25MPaの水圧が作用する条件となります。

工事概要とその特徴

工事名沖縄科学技術大学院大学臨海実験施設・取水機能増強整備事業
工事場所沖縄県国頭郡恩納村字瀬良垣地区(瀬良垣漁港内)
発注者学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
施工者座波建設株式会社
協力業者株式会社東京久栄(海中工事担当)
機動建設工業株式会社(推進工事担当)
工法アルティミット工法泥水式
管呼び径1000
管種推進工法用鉄筋コンクリート管
50N2種 L=2.43m 内水圧0.4MPa 外水圧0.4MPa
推進延長L=204.503m
曲線VR=up500m CL=47.334m
土被りH=10.95m(陸上)~2.51m(海底)
土質琉球石灰岩 最大一軸圧縮強度70.1MPa
発進立坑鋼矢板Ⅳ型 L:7.6m×B:4.8m×H:12.5m
到達立坑海底ピット
推進期間2019年12月 5日~2020年 4月30日

本工事での検討事項

縦断線形の検討

当初計画では縦断曲線を設けない6.8%の下り勾配となっていました。
この線形では琉球石灰岩層の上部にある砂礫層(礫率最大で50%超、透水係数10-2㎝/sオーダー)が一部区間において掘削断面に露出し、半岩半土となります。
この状態での掘進における懸念事項としては、次の事項が考えられます。

  1. 上部層の取込過多の発生
  2. 岩線に乗り上げての精度不良の発生

そこで、発進高さおよび到達高さを変更せずに半岩半土を避けるように線形変更の検討を行いました。
その結果、掘削対象土質が琉球石灰岩になるよう、発進側の下り勾配を10.0%として、その後は縦断曲線を設けてゆっくり勾配を戻して最終は0.5%の下り勾配としました。(図-1、図-2は変更後の線形)

図-1 施工平面図
図-2 施工縦断図

掘進機の選定

ボーリング調査は陸上1箇所と海上3箇所の合わせて4箇所実施され、一軸圧縮強度の最大値は70.1MPa、4箇所の平均値は40.3MPaでした。
試験結果をもとに、掘進機選定の条件を次のように考えました。

  1. ローラビットによる掘削軌跡を全断面確保するための配置を考慮した面板構造であること
  2. 一軸圧縮強度からは外周ローラビットについて交換が1回必要と判断するが、推進区間のほぼ全てが海底下のため機内からのビット交換が可能であること

検討した結果、掘進機隔壁にハッチを設けた機内ビット交換型掘進機であるDHL機を選定しました。(図-3)

図-3 機内ビット交換型掘進機

ビット交換位置の検討

外周ローラビットについては交換が1回必要と判断しましたが、問題はどの位置で交換するかでした。
アルティミット工法の基準では、一軸圧縮強度から推進延長170m以内での交換となります。
推進延長が204.5mであること、到達側の一軸圧縮強度が他よりも高いことを考慮すれば、中間地点ではなく170m付近でのビット交換が望ましいと考えました。
しかし、防波堤より外に出れば波が高く海上での地盤改良が難しいと判断、また防波堤より内ではダイビング等で出て行く船の航路が設けられていることから、防波堤と航路の間の推進延長約60mの位置に設定しました。(写真-1)

岩盤層における掘進

本工事における岩盤層掘進の課題を次のとおりと考え、それぞれの対策を講じました。

  1. 琉球石灰岩の泥土化による面板閉塞
  2. 切粉による周面抵抗力の上昇
  3. ローリング対策
  4. 過度な押付によるビット摩耗の促進
対策1

対象土質である琉球石灰岩はコア写真を確認すると泥土化する可能性はゼロではないと考えました。
面板に堆積し閉塞する懸念があったことから、掘進機外周部から泥水を送りチャンバー内の取込口から排泥水として回収することで、切羽面に泥水を循環させて面板を洗浄する対策としました。

対策2

アルティミット工法では近年岩盤推進に積極的に取り組んでいますが、直近の岩盤施工現場において切粉による周面抵抗力の上昇事象が発生したことより、初期掘進時にテールボイド充填を行うこととしました。

対策3

使用掘進機はカッタトルクと回転数ともに高仕様であるため、当然ローリングしやすくなります。
本工事では後続推進管との緊結による対応としました。

対策4

ローラビットによる切削の場合、過度な押付をするとローラビット内部のベアリングを破損させてしまう可能性があります。
今回使用する掘進機では中折れ部に配置した計測用ジャッキにより先端抵抗力を推察し、過度な押付を防止する対策としました。

海底下における掘進

管路は海底下であることから、地下水に塩分が含まれている可能性が高く、その影響により滑材が希釈劣化され周面抵抗力低減効果の減少が懸念されました。
そこで、一次滑材として塩分の影響をうけにくい流動性滑材「アルティークレイ」(2液型)を、二次滑材として透水係数の高い地盤でも滑材効果を維持することができる高粘性滑材「アルティーK 」(一液型)を採用しました。
また、二次滑材の注入システムとして集中制御で掘進速度に合わせて自動で滑材注入を行うことができるアルティミット滑材注入システム「ULIS」を採用しました。

海中からの掘進機回収

海中での掘進機切離し設備は、施工実績のあるアルティミット工法の切離し設備筒を採用しました。
この切離し設備筒は、掘進機側の第1隔壁筒と推進管側の第2隔壁筒で構成され、それぞれの隔壁には水密扉を設けています。
海中での切離しは、第1隔壁筒と第2隔壁筒の間の空間を海水で満たした後に第1隔壁筒と第2隔壁筒を切離し、第2隔壁筒は推進管内注水後に推進管と切離します。
切離し作業は隔壁筒内に配置した油圧ジャッキにて行います。
掘進機および第1隔壁筒切離しのジャッキ操作は推進管内から、第2隔壁筒切離しは起重機船上からの操作となります。
各切離し作業における潜水士の海中作業は、吊り上げ回収時の玉掛け作業、第2隔壁筒切離し時の油圧ホースの接続および推進管内への注水(バルブ開)、また切離し時の確認作業のみとなります。
以下に切離し設備筒の写真と切離し設備筒全体図を示します。(図-4、写真-3,4,5)

図-4 切離し設備筒全体図

施工報告

岩盤層における掘進

初期掘進は慎重な作業となりましたが、カッタトルク電流値と推進力、また想定先端抵抗力も落ち着いていたことから徐々に推進速度を上げていきましたが、その後も安定した掘進状況を維持することができました。
掘削土砂の泥土化による面板閉塞に対しては、検討時に懸念したような状態は発生しませんでした。(写真-6)

写真-6 琉球石灰岩 排土状況

海底下における掘進

初期掘進時から初動推進力と最終推進力ともに計画推進力を上回ることなく推移しました。
その要因としては、岩盤対策にもありました切粉流入を防止するためのテールボイドの充填作業、地下水の塩分による影響を考慮した選定滑材の使用、ULISによる計画的な滑材注入の効果と考えます。
最大推進力は初動で1323kN(計画の65%)、最終で1421kN(同70%)となり、到達時の推進力は941kN(同40%)の結果となりました。
全体の推進力の推移は図-5に示す推進力管理グラフのとおりです。
また、到達部は立坑ではなく海底に直接到達のため海底土被りが徐々に小さくなる形状であり、泥水の噴発を懸念しましたが、噴発することなく到達部のモルタル壁に達し切削も順調に進み到達させることができました。(写真-7)

写真-7 掘進機到達状況
図-5 推進力管理グラフ

海中からの掘進機回収

掘進機を所定の位置まで押し出した後、切離し設備筒内への試験注水を実施し機内カメラによって掘進機側への漏水が無いこと、また目視で推進管側への漏水が無いことを確認しました。
第1隔壁筒と第2隔壁筒の切離し作業は順調に進み、潜水班第1班が潜水を開始してから掘進機と第1隔壁筒を起重機船上に仮置きするまでの一連の作業は、2時間程度で終了しました。
起重機船上に掘進機を仮置きした後、第1隔壁筒の水密扉を開けて掘進機内への浸水が無いことを確認しました。(写真-8,9)

第2隔壁筒の切離し回収は、掘進機回収から9日後に作業を実施しました。(写真-10)
切離し設備筒内への海水注水から第2隔壁筒の切離し回収までの作業フローを、図-7に示します。

写真-10 第2隔壁筒回収状況
図-7 掘進機海中切離し回収フロー図

終わりに

今回の工事は海底下での岩盤推進、海中での掘進機切離し回収と難しい条件となりましたが、推進施工および海中施工において計画段階から細部にわたって検討を繰り返したことで無事に完了させることができました。
ご協力いただいた関係者の皆様には、この場をお借りしてお礼申し上げます。
今後も海水資源を利用するための取水管路築造方法として、推進工法が貢献できればと考えます。