防爆型泥土圧式アルティミット工法による長距離推進 [ 推進力・管内測量・坑壁切削・可燃性ガス対応 ]

はじめに

東京都下水道局では平成25年7月23日の局地的大雨や集中豪雨、その後のたび重なる台風の襲来などにより甚大な浸水被害が生じたことから、同年12月に「豪雨対策下水道緊急プラン」を策定しています。
同プランは、雨水整備水準を「75ミリ対策地区」「50ミリ対策地区」「小規模緊急対策地区」と3つに分類し、「75ミリ対策地区」「50ミリ対策地区」は平成30年度末までに整備の効果を発揮し、また、「小規模緊急対策地区」を3年以内に完了とする事業内容です。
本稿では「75ミリ対策地区」において、既設の呑川幹線の増強整備事業として、世田谷区立三島公園から上流に向けて行った、呼び径2400、延長約653mの推進施工事例を紹介します。

工事概要

以下に、工事概要を示します。(図-1、写真-1)

工事名呑川増強幹線その2工事
工事場所東京都世田谷区深沢5丁目 三島公園内
発注者東京都下水道局
受注者㈱森組
施工期間令和3年6月7日~令和4年4月6日
工法 泥土圧式推進工(アルティミット工法)
呼び径2400
管種下水道推進工法用鉄筋コンクリート管(NS形管)1種内圧管 
外殻鋼管付き推進工法用鉄筋コンクリート管(MAX推進管)3種内圧管
推進延長L=653.45m
曲線平面曲線 R=150m×2箇所、R=300m×1箇所
土被りH=10.88~12.88m
土質砂質泥岩(N値:50以上)
発進立坑φ9500㎜、鋼製セグメント圧入方式(アーバンリング工法)
図-1 概要図
写真-1 発進ヤード

課題と対策

本工事における課題を事前に抽出・検討し、実施した対策を以下に記述します。

長距離推進に対する検討

【課題1】 推進力の上昇

推進力の検討から中押一段での施工となり、土日完全休み、長期休暇等による再掘進時の推進力の上昇が懸念されます。

周面抵抗力の低減には、一次・二次滑材注入方式を選定し、一次と二次滑材ともに高粘性滑材「アルティーK」(一液型)を採用しました。

対策1
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滑材注入方法としてアルティミット自動滑材注入システム「ULIS」を採用しました。
ULISは推進管内に配置された複数の滑材注入孔にバルブユニットを接続し、集中制御で「注入箇所」「1孔当りの注入時間」「注入量」「掘進速度」「上限圧」を設定することにより、掘進速度に合わせ自動で一次および二次滑材注入を行うことができるシステムです。(写真-2)  
二次注入孔は25mごとに設け、均等に注入する計画としました。
以上の対策から、計画推進力の60~70%の推進力で到達することができました。(図-2)

写真-2 ULIS制御盤
図-2 推進力管理グラフ (クリックするとグラフが拡大されます。)
対策1
2

【課題2】 管内測量作業の軽減

本工事には3箇所の曲線区間があり、トータルステーションによる人力測量を行います。
しかし、長距離推進のため測量に長時間を要し、所定の日進量の確保が難しくなります。

自動測量システムを採用し、通常1時間程度かかる測量時間を15~20分に短縮することで日進量を確保しました。(写真-3)

写真-3 管内状況

対策2
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ジャイロコンパスにより掘進機の方位角をリアルタイムに管理することで、掘進機の位置を想定することが可能になりました。

対策2
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FFU(Fiber reinforced Foamedo Urethane)壁面切削(発進時)の検討

【課題1】 FFU切削片による閉塞

壁面切削推進における過去の施工事例から、大きく割れた切削片が排土管を閉塞させることが懸念されました。
閉塞した場合、瞬間的な切羽圧力の上昇を引き起こし、切羽の安定を保持できなくなります。

掘進機のビット形状、配置は施工実績から検討し、また大きく割れた切削片が沈降し一挙に排土するとスクリュコンベヤで閉塞するため、高粘性添加剤を使用することにより閉塞を防止しました。

対策
1

【課題2】 元押ジャッキスピードの制御

FFU切削時の元押ジャッキスピードは3㎜/min以下にすることが推奨されていますが、通常元押ジャッキに使用している油圧装置は油の流れが多く、低速の安定したジャッキスピードは難しいため、FFU噛み込み時の掘進機本体のローリング、カッタトルクオーバが多発することが懸念されました。

本工事では、ジャッキスピードを毎分1.2㎜程度に維持できる超低速運転制御が可能な油圧装置を採用しました。
FFU切削時は、カッタトルク60%前後を維持することで掘進機のローリングやカッタトルクオーバ等が発生することなく、順調にFFUを切削することができました。(写真-4)

写真-4 FFU切削片
対策2
1

過去の施工事例からFFUの背面が地山の場合、FFU切削時に薄くなると大きく割れてしまうことから、FFU背面をセメント系地盤改良を施し、大割れを防止しました。

対策2
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メタンガスに対する検討

【課題】 防爆対応

推進路線の泥岩層は、簡易ガス測定によって可燃性のメタンガスの存在が確認され、部分的に爆発下限値濃度5%以上を記録していることから、何らかの防爆対策が必要と判断しました。

可燃性ガス対策として、防爆区域と非防爆区域で区分し、防爆区域においてはエアカーテン方式を実施しました。
防爆エアカーテン方式の坑内換気は、排気方式を前提としていますが、その排気効果は通常排気風管の吸込み口から風管内径の2倍程度の範囲内とされています。
このため、防爆区域からエアカーテンを経て地上まで排気し、危険区域に向けて送気する送排気併用方式を採用しました。(図-3)
また、掘進機、後方台車、ジャイロコンパスは防爆区域となるため、防爆仕様に改造を行いました。

対策
1

自動ガス検知システムを採用し、24時間計測を行い計測結果はリアルタイムで集中管理室にて管理しました。(写真-5)

図-3 送排気併用方式(クリックするとグラフが拡大されます。)
写真-5 自動ガス検知器
対策
2

掘進中は基本的に管内を無人化とすることで、可燃性ガスによる危険を回避しました。

  1. 掘進機は遠隔操作を採用し、オペレータは立坑内に設置した操作室から掘進機の操作を行いました。
  2. 自動測量システムを採用し、管内測量を自動化することで管内作業を点検等の最小限にしました。
  3. 土砂圧送機は遠隔操作および自動運転を採用し、オペレータは立坑内に設置した操作室で操作を行いました。
対策
3

掘進機のスクリュ排土口と土砂圧送機のホッパ部を配管にて接続し、密閉することで掘削残土から発生する可燃性ガスを管内に流入させることなく掘削土砂を輸送しました。

対策
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おわりに

本工事では、一般的な推進工事と異なり防爆対応を必要とする長距離推進でしたが、掘進機および管内設備における事前の検討と対策、加えて日々の推進力の管理を行うことで、トラブルもなく順調に施工することができました。
しかしながら、改善すべき点もあり今後の推進工事に活かしていきたいと思います。
本工事は住宅街の公園を発進立坑基地としていました。そのため、工事の期間中は毎日のように多くの子ども達がゲート入り口から工事現場を興味深くのぞき見ながら通っていました。
そこで、広報とCI(会社の理念)、CSR(企業の社会的責任)の一環として、近くの保育園児を工事現場に招き入れ、いずれは地中に埋設される推進管に絵を描く「お絵描き大会」を企画しました。
その企画は大いに盛り上がり、お絵描き大会に参加した園児のひとりから「将来工事現場で働く人になりたい」との感想もあり、我々の仕事に興味を持って頂けたことに、とても誇らしさを感じました。
同時に園児たちと同年代の我が子にも「お父さんの仕事はかっこいい」と言われるようになりたいと心から思いました。
最後になりますが、ご協力いただいた関係者の皆様にはこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。