ステーションシステム関連の技術について

はじめに

推進工法は、地中に埋設する管路の両端に作業基地となる発進立坑及び到達立坑を構築し、発進立坑側から到達立坑側に向かって掘進機等によって地盤を掘削しながら、推進管を地中に推進埋設していく方法です。
一般に上下水道、電気、ガスなどの公共的なパイプラインは、公道である道路下に敷設されるのが原則であり、地下埋設物、交通状況、沿線の環境等が調査されて、発進立坑や到達立坑の位置が決定されます。
しかし、大都市圏における工事は、都市活動などを阻害しないための諸条件が厳しく、道路内での立坑および作業基地の確保が難しくなってきているのが現状です。
このため、開発されたのが管路敷設のための発進、到達基地を道路面に設けない、ステーションシステムです。
このシステムは、施工条件が制約される大都市圏での推進工事に必要な技術として、また、アルティミット工法の1システムとして多く採用されています。
以下に、当社が発明し開発したステーションシステムの概要及び特許内容、そして施工事例について紹介します。

ステーションシステムの概要

ステーションシステムで、管路の敷設が計画されている道路下に、発進立坑や到達立坑を構築するために、道路沿いの空き地などを利用して、空き地内にステーション用立坑及び作業基地を確保し、この立坑より管路敷設の計画位置まで発進基地や到達基地となる横坑を構築します。
横坑の延長は、先端部分で管路敷設のためのシールド工事や推進工事の設備が設置できる位置までとします。
横坑の形状は、シールド工事や推進工事の作業性を考慮して、効率の良い矩形断面が原則として採用されます。(図-1)

図-1 ステーションシステム概要図

ステーションシステムの構成

図-2 発進ステーション用横坑内からの推進施工図

本工法は、横坑と立坑により構成されます。立坑としては、掘進機や推進管を吊り降ろし、横坑内に取り込んで(図-2)発進作業を行うための発進ステーション用立坑と(図-3)、掘進機等を横坑内から取り出し、回収するための到達ステーション用立坑とに区分されます。
横坑の大きさは、敷設される管渠の大きさや形状、管路延長、横坑の使用目的(発進か到達)によって、断面寸法が検討されます。
発進横坑は、シールド工事では掘進機及びセグメントの搬入、掘進機の発進設備のスペース確保が必要となります。

図-3 発進ステーション用横坑構築図

推進工事においても、掘進機及び推進管の搬入、掘進機及び推進管の発進設備のスペース確保が必要です。
到達横坑としては、掘進機の回収が行えるスペースの確保が必要です。立地条件等で掘進機全長の幅が確保できない場合は、掘進機の分割回収によって対処します。
横坑の構造は、コンクリート構造や鋼構造で、施工性や経済性を考慮して決定されます。
一般に断面形状が比較的小さい場合、鉄筋コンクリート構造のものが経済的であり、大断面になると、PCコンクリート構造や鋼構造が経済性、施工性等で有利となります。
土被りの比較的浅い場合には、迂回路を設けることによって横坑及び立坑の全断面を掘削して、道路下になる横坑部分を覆工して車両の通行をさせる方法が採用されます。

ステーションシステムの特徴

ステーションシステムは、道路交通量の多い都市部や生活環境を守るべき住宅地域の工事において次の1~3に記すように、交通規制の必要がなく、社会的費用の大幅な低減に効果を発揮できる工法として注目されています。

  1. 管路を敷設する道路上に工事基地を一切設けないため、車両や歩行者の通行に支障を与えることがなく、第三者事故の危険性も低くなります。
  2. 道路内に立坑等を構築しないため、道路舗装の撤去、復旧工事、既設管の移設工事もなく、それによる産業廃棄物の発生や工事による騒音・振動もない無公害の工法です。
  3. 推進設備がほとんど横坑内に設置されるため、工事による近隣への影響が少なくなります。
図-4

ステーションシステムの特許技術

本工法は、ピット工法という発明の名称で1969年1月(昭和44年)に出願され、5年後の1974年1月に工法特許として登録され、技術的に確立されています。
以下にステーションシステムに関連する特許技術について概要を説明します。

特許第741679号

=発明の名称「ピット工法」=

ステーションシステムの基本特許です。
技術の内容は、図-4に示すように凾渠の側壁の片側又は両側に推進埋設する管の外径よりやや大きい径を有する孔を設け、管推進計画線より外れて設けた立坑から、凾渠を推進埋設して凾渠の孔の中心線と計画管路の中心軸線とを一致させ、凾渠をステーションとして、孔より管を順次推進埋設する工法です。

特許第3252102号

この技術は、ステーション用立坑から横坑内へ推進管を吊り降ろし、取り込み、据え付けるための取り込み方法に関するものです。
特許の内容は、図-5、図-6に示すように、横坑内の推進管の埋設位置の前部と後部に、レール材を設けた固定式推進台を設置します。
固定式推進台のない中間部分には、レール材を設けた移動式推進台が配設され、横坑の先端からステーション用立坑まで設置したガイドレール上を移動可能となっています。
ステーション用立坑より吊り降した推進管を移動式推進台に設置し、移動式推進台をガイドレール上を固定式推進台と一致する位置まで搬送し、固定することによって、推進管を据え付ける取り込み方法です。

図-5
図-6

特許第2002-4779号

=発明の名称「推進用立坑内の移動装置」=

この技術も、ステーション用立坑から横坑内に資機材を搬出入するための移動装置です。
特許の内容は、図-7に示すように、ステーション用立坑及び横坑の前後の側壁(土留壁)に沿って平行に設けた2本の受桁と、受桁を所定の間隔を置いて支持するように設けた支柱と、受桁上に設置されたレール材と、2本のレール材に渡すように設けられレール上を走行可能にした走行台車を装備した主桁と、主桁を横行可能にした吊具とにより構成される移動装置です。

図-7

施工報告

実際に、シールド工事や推進工事において採用されたステーションシステムの施工事例を次に紹介します。

施工事例-1【狐川改修工事(シールド工区)のうち横坑築造工事】

発注者神戸市建設局
施工条件横坑は、H形鋼900×300mmを骨格とした組立式スチールボックスで製作されました。
横坑寸法幅:12.071m 高さ:8.854m 延長:6.734m 重量:256t (写真-1)

本工事は、河川改修工事(シールド工事)に付随した工事で、立地条件から幹線道路上にシールド発進立坑が構築できないため、道路沿いの空地にステーション用立坑を設け、立坑内でスチールボックスを組み立てて、シールド工事の発進位置までステーション工法で推進した工事です。
スチールボックス内には、掘削作業を安全かつ容易に行うため上段、中段、下段の計3段の作業棚を設置しました。
また、切羽の崩壊を防止するために、鋼管杭(600mm)を頂部と側面に施工するとともに、敷設断面の地盤を薬液注入工により地盤改良しました。

写真-1 横坑全景(スチールボックス)  写真-2 横坑先端部

施工事例-2【大宮駅管路工事(1工区)】

発注者東京電力(株)
施工条件アルティミット泥水推進工法 呼び径1350×630m
土質条件砂質土

本工事は、新都心への電力供給のための電力用の推進工事であり、曲線を含む長距離推進として、泥水式アルティミット工法が採用されました。
発進立坑は、駅前の産業道路上で、発進立坑を開放しておくことができないため、発進立坑部分は覆工板をかけて通常の車両通行を行い、横坑より資機材を搬出入するステーションシステムが採用されました。
推進管は、横坑から吊り降ろし、発進立坑側への取り込みは、特許第3252102号 の技術であるトラバーサー方式が採用されました。
推進工事は安全に効率よく行われました。(写真-3)

写真-3 取込装置(トラバーサ-方式)

施工事例-3【武蔵境~戸田地中送電線路新設工事】

発注者JR東日本
施工条件アルティミット泥水式推進工法 呼び径1000×755m
土質条件砂質シルト

本工事は、電気の安定供給を目的とした高架線の地中埋設のための管路工事で、発進基地が駅前の幹線道路かつ交差点手前位置となることから、作業時間が制約され、発進立坑を覆工し、発進立坑サイドに設けられた横坑より推進管等の資機材を搬出入するステーションシステムが採用されました。
横坑から発進立坑側への推進管の取り込みは、特開2002-4779号の技術である天井クレーン方式が採用されています。(写真-4)

写真-4 取込装置(天井クレーン方式)

あとがき

以上、ステーションシステムについて報告しました。
今後、都市圏における工事は、工事自体の安全性や経済性を満足するだけでは充分ではなく、工事に伴う交通障害や生活環境を阻害しない社会的費用も考慮することが必要となってくると思われます。
シールド工事や推進工事の計画に、社会的費用を低減できるステーションシステムをご検討下さい。