上載土移動防止函渠推進工法 デスリップカーテン工法

はじめに

推進工法は、円形管であるコンクリート管等を油圧ジャッキによって地中に推進埋設する工法として開発され、下水道管をはじめとする地中ライフラインの敷設を通して社会資本整備の向上に大きく貢献してきました。
推進工法の発展に伴って、矩形断面の推進需要も多くなり、昭和40年代の初期より函渠の推進施工が開始されました。
函渠推進工事は、当初は円形管の推進技術を用いて容易に施工できるものと考えられていましたが、土被りの浅いところやバンクでの施工が大半であったことから、函渠上の上載土が推進とともに動きだす現象が発生し、大きな問題となりました。
すなわち、円形管ではアーチ作用によって上載土の移動現象が発生することはほとんどありませんでしたが、矩形管では、前述の上載土の水平移動を防止できる工法の開発の成否が、函渠推進工法の将来を左右する大きな鍵となりました。
このため、当時の技術開発部で上載土移動防止の方法についての研究開発に着手しました。あるとき、OL向けのナイロンストッキングのはき方にヒントを得て、デスリップカーテン工法の構成となる薄鋼板―刃口―支圧壁の基本的な組立が創案され、短期間の内に上載土移動防止装置の全システムの実施設計が完成しました。
このシステムは、直ちに近鉄布施駅地下道および大牟田市下水道の函渠推進工事に採用されて、その真価を発揮し、画期的な工法であることが実証されました。
以下に、デスリップカーテン工法の機構と最近の施工事例について報告します。

図-1 側断面図

デスリップカーテン工法の機構

デスリップカーテン工法の概要

デスリップカーテン工法の全システムを図-1の側断面図を基に説明します。

  1. カーテン鋼板と呼ぶコイル状に巻いた数条の薄鋼板を函渠内に吊し、その一端を先端に装備した刃口の上部に設けたスリットを通し、函渠上面に沿って函渠の後方に引き出し、カーテン集束ビームに結合します。
  2. カーテン集束ビームは、左右両端をタイバーを介して支圧壁中にアンカービームに結合することによって、支圧壁に固定します。
  3. 先端に刃口を装備した函渠が前方に推進されると、函渠内のリールに巻いてあるカーテン鋼板は転解されて函渠が前進した長さだけ函渠頂面に展張されます。
  4. 函渠上の上載土は、カーテン鋼板の上に載り、そのカーテン鋼板は支圧壁に固定されて移動しないため、函渠を推進しても上載土は前方に移動することなく定位置に保持されることになります。
    なお、元押ジャッキ推力による支圧壁の後方への変位(バック死)が大きい場合には、カーテン集束ビームが支圧壁の変位と共に後方へ引き戻されることを防止するために、カーテン集束ビーム定位置保持装置が開発されています。

カーテン集束ビーム定位置保持装置

この装置は、サーボラム、サーボバルブ、サーボバルブを開閉する移動検知カムおよびこれらを作動させる油圧ポンプと蓄圧器よりなる一連の油圧機構で構成されています。
図-2はその機構の説明説明図で、この図を基に説明します。

  1. 支圧壁が元押ジャッキの推力により後方に変位すると、カーテン集束ビームがタイバーおよびサーボラムを介して後方に微動しようとします。
    カーテン集束ビームが微動しようとすると、カーテン集束ビームに固定した移動検知カムは戻り、戻り用サーボバルブを押して戻りの油圧回路を開放します。
    これにより、サーボラムは支圧壁の変位に同期して伸張し、カーテン集束ビームを定位置に保持します。
  2. カーテン集束ビームが前方に引っ張られて変位しようとすると、移動検知カムは縮み用サーボバルブを押して縮み用油圧回路を開放します。これにより、サーボラムは縮み、カーテン集束ビームを引き戻すように作動してカーテン集束ビームを定位置に保持します。
図-2カーテン集束ビーム定位置保持装置

カーテン集束ビーム定位置保持装置を計画しない場合は、カーテン集束ビームを前方の土留め壁等で強固に支持固定できる補強方法等の計画が必要になります。

函渠上載土移動の有無の検定

上載土移動に関する力の関係

上載土の移動に関係する力は、図―3に示す模式図のようになります。
図中のFは上載土が函渠の動きに引きずられる力(牽引力)で、Rは上載土が水平移動をしようとするのを阻止しようと働く力(抵抗力)です。

図-3 模式図

牽引力の構成

牽引力(F)は、

  1. 上載土と函渠頂面との摩擦力、
  2. 上載土と函渠頂面との粘着力、
  3. 函天側の刃口で土を切っていく切削力または貫入力(C’)

で構成され、函の上載土はこの3つの力を受けて前方へ移動しようとします。

抵抗力の構成

抵抗力(R)は、①函渠の上載土の両面、すなわち図-4におけるAA’、BB’面の摩擦抵抗力および粘着抵抗力、②刃口上面地盤、すなわち図-5のCC’面の受動土圧抵抗力で構成されます。
このように、函の上載土の水平移動を食い止めようとする力(R)は、上載土自身の両側面と前面によって作られます。
ここで、F<Rであれば、上載土は移動しませんが、F>Rであれば上載土が移動します。
ただし、土は塑性変形を起すものであり、また、土質の不均一性、地層の平均的広がり等が不明確であるため、上載土が移動しないという結果が出ても移動量が0mmになるとの速断はできません。
特に重要構造物下の横断工事等では、かなりの余裕をもったF<Rでなければ安全とは言えません。

図-4 横断面図
図-5 縦断面図

カーテン鋼板の厚さの決定

カーテン鋼板の厚さは、カーテン鋼板にかかる力を算定して決定します。
ただし、算定で求められたカーテン鋼板の厚さが1.5mm以上になるとカーテン鋼板をリールにセットすることが困難になるため、鋼板の幅を小さくして列を増すか鋼線やワイヤーロープを利用する、いわゆる「スダレ工法」を検討する必要があります。

施工事例

工事概要

函渠外寸法W7,000×H5,500×L45m(1スパン)
W4,900×H5,100×L45m(1スパン)
土被り3.0m
土質砂質粘土
工事内容

施工検討

本工事は、国道を挟む連絡地下道を建設する工事です。
この国道は大型車が多数往来する主要幹線道路であること、また、函渠幅に対して土被りが3.5~3.7mと非常に浅いことなど厳しい施工条件から、細部にわたって課題を抽出・検討しその対策を立てました。
主な検討と対策の内容は次のとおりです。

上載土移動防止の検討と対策

函渠幅(7.0m、4.9m)と比較して土被りが3.5~3.7mと非常に浅く、函渠上載土の移動の有無を検討しました。
土質・施工条件を基に力の算定を行った結果、上載土が函の動きに引きずられる牽引力(F)が、上載土の水平移動を阻止しようとする抵抗力(R)より大きくなることから、上載土が移動すると判断しました。
このため、上載土の移動防止を目的にデスリップカーテン工法を採用しました。
カーテン鋼板の形状は、カーテン鋼板に作用する張力等から算定して、下記のように決定しました。

函渠(W7,000×H5,500)カーテン鋼板厚さt=0.3mm
W=400mm
枚数n=12枚
函渠(W4,900×H5,100)カーテン鋼板厚さt=0.3mm
W=400mm
枚数n=8枚

カーテン鋼板の取付状況を写真-1に示します。

写真-1 カーテン鋼板の取付状況
切羽崩壊に対する検討と対策

主要幹線道路下を、浅い土被りで大断面の函渠を推進することから、切羽の安定に対しては万全の対策を検討しました。
管路区間は、薬液注入による全断面の地盤改良を計画し、函渠先端に装備する刃口は切羽上面の崩壊を防止するためにフード付き棚刃口を採用しました。
また、推進施工時には、余掘りによる切羽の崩壊を防止するために、基本的に刃口を地山に貫入させ、刃口から函渠内に押し出された土砂を切り取りしていく方式で推進作業を進めていくことを決めました。

日進量の検討と対策

発進立坑部の作業ヤードは狭く、また、資材の搬入時間に制限を受けることから、設備の配置と施工サイクルタイムには充分な検討を重ねました。
元押設備は、狭い作業ヤードや作業効率を考え、三段式のロングジャッキ(200t×3000st)を採用しました。
また、函渠は、地上で組立てると、180tクローラーでも立坑内への吊り降ろしができないため、立坑内の発進架台上で組み立てる計画としました。
元押設備を写真-2に示します。

写真-2 元押設備
推進力の検討

推進力の不足による作業の中断が発生しないように、推進力や支圧壁反力の算定を綿密に検討し、推進設備を、次のように計画しました。

函渠W7,000×H5,500のスパンは、

函渠耐荷力71,500kN
必要推進力34,500kN
支圧壁反力50,000kN

となり、函渠耐荷力及び支圧壁反力は必要推進力に対して十分であり、理論的には中押設備を必要としません。
しかしながら、元押ジャッキ設備の能力が24,000kNで限度となるため、次のように中押設備を計画しました。

元押ジャッキ設備能力24,000kN
中押ジャッキ設備能力20,000kN

函渠W4,900×H5,100のスパンは、

函渠耐荷力58,500kN
必要推進力19,900kN
支圧壁反力34,800kN

となり、函渠耐荷力、支圧壁反力及び前述の元押ジャッキの設備能力が必要推進力に対して十分であるため、24,000kNの元押ジャッキ設備のみの計画としました。

施工結果

鏡切りを慎重に行った後、刃口を貫入させる方式による掘進を開始しましたが、貫入抵抗が予測よりも大きくなり、刃口に大きな負荷が作用することになりました。
このため、刃口内に入ってきた土砂は取り落とす方法に切り替えて、刃口への負荷を軽減するとともに日進量の向上に努めました。
カーテン鋼板は、必要延長分を巻き取ったリールを刃口後方の函渠内頂部に吊るしました。
デスリップカーテン工法により、国道の地表面への影響は皆無でした。
推進状況を写真-3に示します。

写真-3 函渠推進状況

推進施工は、事前の検討と対応策により順調に推移し、2スパンともにトラブルもなく無事到達しました。推進力は、計画推進力と同程度であり、断面の大きい1スパン目は当初の計画通り中押装置を使用しました。
写真-4に推進完了後の函渠内状況を示します。

写真-4 推進完了後の函渠内状況

おわりに

本工事では、大断面函渠の推進施工に当り、事前に綿密な検討を行い対策を立案しましたが、非常に浅い土被りであったために一抹の不安を感じていました。
これに対してデスリップカーテン工法は、その効果を充分に発揮して当初の不安を解消してくれました。工事に携わった技術者として、安堵とともにあらためて本技術を非常に誇りに思いました。
今後も、より安全で確実なシステムとして改善・改良を行い、函渠推進工事をとおして社会のニーズに応えられるように努力していく所存です。
最後にデスリップカーテン工法は、土木技術の発展を通じて社会に大いに貢献したとして高い評価を受け、(社)土木学会の技術開発賞を受賞していることを付記しておきます。

本技術報告は、(社)日本下水道管渠推進技術協会発行「月刊推進技術2007年3月号」に掲載されたものを一部修正し転載しました。