インドネシア国ジャカルタ特別州チリウン放水路完成報告
はじめに
2015年1月21日、日本から搬入されたφ3500の泥土圧式掘進機が立坑下に据え付けられ、チリウン放水路建設プロジェクトの本邦チームが担当する推進が始まりました。
当工事は毎年のように氾濫する旧河川チリウン川から改修済みの放水路(BKT)を繋ぐ地下放水路の建設です。
概要は呼び径3500の推進工法用鉄筋コンクリート管を並列に約1200mの距離をアウトレット(放流)側とインレット(流入)側から中間立坑に向けて堀進して繋ぎます(図―1、2)。
最初の掘進はアウトレット側のサウスラインから始まりました。
諸々の問題をその都度解決しながら6月10に到達、引き続き同月20日にノースラインを発進して10月8日到達し、17日に掘進機を撤去してアウトレット側が繋がりました。
計画では、翌年インレット側の施工を行う予定でしたが、発進部の用地買収に手間取り、数年の歳月が過ぎてしまいました。
用地取得に目途がつき、2021年の年明けにコロナ禍の中ですが、ようやくインレットの工事が動き出しました。


コロナ禍での準備
2021年は、年初から現地法人(国営企業)のWIKAとはWeb会議にて打合せを続けてきましたが、現場状況の把握およびアウトレットで使用した機械・材料の保管状況の確認のため、インドネシアも日本も厳しい出入国制限措置や行動制限措置等の渡航制限が課されている環境でしたが、5月中旬に約1年半ぶりで渡航しました。
インドネシアへの入国に際しては、5日間指定ホテルでの強制隔離、帰国時には2週間の自主隔離が課され、また、両国とも出入国時にPCR検査も義務付けられていました。
また、ジャカルタでの打合せ時には客先からアンチゲン検査の陰性証明も求められました。
その後も渡航制限の中、個人としてはコロナワクチンを積極的に接種して隔離生活にも耐えながら10月と翌年1月に再度渡航し、不足材料の洗い出し、数年間放置した機械整備および施工打合せと、それらに伴う金額交渉等々を進めていきました。
機械の整備については、3月20日から1号掘進機(国土開発工業㈱)、油圧機器、滑材用機器、加泥装置など、4月20日からは圧送ポンプ、1号掘進機での推進が開始している7月には、2号掘進機(奥村機械製作㈱)の整備をそれぞれ行いました。
コロナ禍で、感染リスクが高いなかで渡航しての整備でしたが、アウトレット施工時にそれぞれの納入協力企業の方々がジャカルタまで出張していただき、工事の着手に間に合うことができました。(写真-1)

インレットの施工
インレット終了時における推進計画は以下のとおりです。
| プロジェクト名 | : | CONSTRUCTION OF FLOODWAY CILIWUNG TO KANAL BANJIR TIMUR |
| 事業費負担 | : | インドネシア政府 |
| 事業目的 | : | 旧河川のチリウン川と既設放水路のバンジルキャナルを地下トンネルで結ぶことによって、ジャカルタ市内の洪水を防止する |
| 受注企業 | : | WIKA-JAYA KONSTRUKSI KSO |
| 推進施工 | : | WIKON-KIDOH(機動建設工業㈱) KSO |
| 本邦協力会社 | : | 地建興業㈱ (施工管理者派遣) ㈱五行建設 (掘進機他操作) |
【使用掘進機】
| サウスライン | : | 国土開発工業㈱ φ3500泥土圧式掘進機(1号機) |
| ノースライン | : | 奥村機械製作㈱ φ3500泥土圧式掘進機(2号機) |
| 推進管種 | : | 呼び径3500(外径4,050mm)一体製形鉄筋コンクリート管 |
| 工法 | : | 土圧式超大口径管推進工法 |
| 土被り | : | 8.0m~9.5m |
| 地下水位 | : | GL-2.0m |
| 土質 | : | 礫混じり砂質及び粘性土 |
【推進距離および曲線半径等】
| サウスライン | : | L=581.76m R=247.5m |
| ノースライン | : | L=583.59m R=252.5m |
施工概要
2022年3月から機械の整備と並行して推進準備を始め、5月14日には掘進機(1号機)を立坑下に設置し、5月20日にサウスラインの推進を開始しました(写真-2,3)。
当初推進管の接続においてゴムの捲れ、カラー寸法の誤差で一度セットした推進管の入替が多発して現場職員のフラストレーションが溜まりました(接続不良の回数は減りましたが最後までこれには悩まされました)。
10月5日にはサウスラインが到達、同17日にはノースラインの2号機が発進し、翌年(2023年)1月24にはジョコ大統領、バシキ大臣がお見えになり到達式が行われました。
到達式では大統領がボタンを押すと同時に掘進機の面板が回りながら押し出される様子が映しだされて大成功でした。(写真-4,5)




全体的には、アウトレットの河野誠司・プロジェクトマネージャーが今回も担当したこともあり、経験を踏まえ事前に対応策を講じたため、大きなトラブルもなく完了しました。
以下に現地で対応した事項を述べます。
礫対策
アウトレットでは障害物撤去後と旧井戸通過時、および到達間際の玉石等による閉塞が度々起き、最後まで残土圧送ができませんでした。
インレットでは到達手前40mぐらいから小石を多数含む玉石が出現しはじめましたが、すぐに網を設置して人海戦術で圧送ポンプに入る前に取り除き、閉塞を回避しました。
しかし、サウスラインでは取り除きが間に合わず、閉塞解除に時間が掛かりすぎたため30m手前からは立坑下にバケットを設置して残土を搬出しました。
ノースラインではローカルワーカーの頑張り(写真-6)と、こまめな添加剤の配合調整により到達まで圧送による排土ができました。

添加剤の工夫
泥土圧式推進工法での圧送ポンプによる排土方法では、添加剤の選択が非常に重要です。
本ラインの施工では、粘性土の場合はTGコートPを、礫が多くなるに従いTGスライムⅢとベントナイト(インドネシア製)の混合を添加しました。
配合調整は圧送排土されてくる土砂の状況を見ながら微妙に調整していくなどの職人技が要求されましたが、見事に対応しました。
滑材注入
滑材注入はアルティミット滑材注入システム(ULIS)を採用し、材料は一次、二次注入とも高粘性滑材アルティーKを使用しました。
注入量は、滑材層の劣化状況を見ながら、一次注入は通常の1.5倍程度、二次注入は2倍程度を目安に注入しました。
二次注入の位置は、先頭から50mピッチで上→左→上→右→上と変えていきました。
配合も滑材の状況を確認しながら適時増量していきました。
その結果、掘進機の押し出しまで中押しジャッキを使用することなく効率の良い施工ができました。
曲線・精度管理
精度管理については、ジャイロコンパスを搭載してリアルタイムで掘進機の方向を確認するとともに、WIKAの測量チームと本邦チームが相互に測量して誤差を修正しつつ行いました。
本邦チームの測量では当社で採用した現地職員が中心になって行うようにしました(写真-7)。
曲線は推進力伝達材(発砲ポリスチレン)を計算により適時設置しました。
これも本邦の独自技術と言えます(写真-8)。
両スパンとも到達精度は上下左右とも30mm以内で、事前にコンクリートで固定された到達坑口に到達することができました。


見学者
当プロジェクトは、大統領をはじめ大臣が視察や到達式に来られるほどインドネシア国内では大変注目され、現地テレビニュースでも度々紹介されました。
インドネシアの公共事業省(PU)やジャカルタ特別州(DKI)の方々を始め、インドネシア国有ゼネコンや関係するローカル建設会社、日本からも大使館の方、国交省専門家、JICAの職員、下水道グローバルセンター(GCUS)メンバー、日本のゼネコンやコンサル等々多くの視察の方々が訪れ、助言や励ましの言葉をいただきました。
一部写真で紹介します(写真-9~12)。




おわりに
6月14日現在の現場の状況は、本体工事がほぼ完成し、7月末の竣工式に向け現場周辺の公園化など付帯工事を進めていました(写真-13、14)。
今回はコロナ禍の中での海外工事で、当社日本人スタッフ、当社ローカルスタッフ、日本から参加したワーカーもほとんど感染して隔離や入院の手配、または作業編成の変更などコロナ禍での苦労もありました。
前述の到達式には筆者も運良く参加できましたが、いろいろな方から、握手や写真を求められ本邦の推進技術を称賛していただきました。
超大口径で日本を含めても最長の曲線推進を無事完成でき、本邦技術の高さを証明できたと言っても過言ではありません。
これから始まるZone1(日本のODAによる下水道工事)でも多くの推進工事が含まれています。
本邦推進技術が益々インドネシアのインフラ整備に必ずや役立つことと思います。
準備から数えるとアウトレット開始から完成まで約10年の月日が流れましたが、個々にご紹介できないほどいろいろな方から応援ご指導をいただきました。
今回のプロジェクト・マネージャーのFarida Maharani氏はアウトレットから携わっています。
末尾になりましたが、彼女を始めWIKAの他、現地のローカルゼネコンの皆様、関係した日本の方々、本当にありがとうございました。
この場を借りて感謝を申し上げます。




